▼紙の百科事典の価値は今やゴミ以下
古本屋で買い取ってもらえない本の一つに、百科事典があります。
百科事典は最新が最良。スマホと同じです。版が古くなればなるほど、どんどん役に立たなくなります。
1970~80年代ごろに、日本で百科事典ブームが起きました。「ブリタニカ国際百科事典」などの事典を、「世界最高峰の事典で、値打がある。将来は値下がりせずに高値で売れるから買いなさい」と言われて、ローンを組んで買った人がたくさんいます。僕の父親がそうです。
現在は二束三文にもなりません。無価値です。
ゴミに出すとき、下手したら廃棄費用を取られます。装丁も豪華に作っているため、重いですし、捨てるのがめんどくさいという実に困った存在なのです。
▼紙の弱点を完全に克服したwikipedia
百科事典はなぜ、無価値になるのでしょうか。それは、現在進行形の事象を扱うことが多いため、出版された時点で情報が古くなってしまうためです。
例えば、今年の5月には元号が「平成」から変わりますから、「平成」とか「元号」の項目が大きく変わってしまいます。他にも、ソ連が崩壊してロシア連邦になったように、国の名称や仕組みそのものが変われば、大半を書き換えないといけません。ノーベル賞の受賞者が決まるたびに、「日本人の受賞者数」なども変わってしまいます。
つまり、紙の百科事典は時間の経過とともに内容が不正確になる運命から、逃れられないのです。
ネットに上がっているフリー百科事典wikipediaは、そういった紙の百科事典の問題点をすべて克服した存在です。常に情報が最新になるからです。例えばノーベル賞の受賞が決まれば、すぐにノーベル賞の項目や、受賞者の項目が加筆されます。また、紙だと誤植があれば刷り直しをしないといけません。しかしwikipediaであれば1秒で修正できてしまいます。
おそらく、これまでに紙の百科事典に携わってきた編集者や著者が、もっとも望んだ事典の形ではないでしょうか。インターネットが紙の最大の弱点を克服した、最たる例といえるでしょう。
▼マニアックな情報を徹底的にカバー
wikipediaのすごみは、従来の百科事典では絶対に項目が立てられなかった情報も充実しており、それがしかも濃すぎる点にあります。
特に、オタク関係のコンテンツの充実ぶりは、目を見張るものがあります。例えば百科事典は「アニメーション」の項目はありましたが、紹介されていてもせいぜい「鉄腕アトム」とか「ライオンキング」程度のものでしょう。しかも作品の紹介も1行程度で終わってしまいます。
wikipediaは違います。ありとあらゆるアニメの項目があります。例えば「けものフレンズ」という項目があったとすれば、個々のキャラクターの説明にはじまり、監督の「たつき」、放送局の「テレビ東京」、さらに声優の「尾崎由香」など、従来の百科事典ではカバーできなかった情報も網羅できているのです。
↑ 「けものフレンズ」だけでもここまで濃く、充実しています。なお、この画像は冒頭の解説文をスクショしたものにすぎず、各話や登場人物の紹介など、膨大な情報が掲載されています。
続いて、鉄道を例に紹介しましょう。「東海道本線」くらいの項目なら百科事典にも辛うじてあります。しかし、「新橋駅」「横浜駅」「小田原駅」といった個々の駅の項目まで立てられている百科事典は、存在しません。wikipediaは東海道本線のマイナーな駅も含め、すべての駅が紹介されています。
こうした項目の多さ、圧倒的な情報量は、wikipediaの最大の強みです。この時点で、紙の百科事典は既にwikipediaに敗北しており、オワコンになっていると言っても過言ではないのです。
wikipediaの解説文は、10年ほど前まではかなり質にばらつきがあり、玉石混交でした。ところが、最近はプロが見ても質の高い文になっているのです。
百田尚樹さんは「日本国紀」という自著で、一部にwikipediaの文章をコピペしていたという限りなく黒に近い疑惑があります。優れた作家と本を作りまくってきて文章を読むことについて長けている見城さんが、その本の、よりによってコピペ文によって構成されている箇所を、「徹の部屋」という冠番組で絶賛しました。
これを見て、見城さんもコピペ文章を見抜けないなんて大したことねーなーと言っている人がいましたが、それは間違いです。
wikipediaの文章は、見城さんを唸らせるレベルに質が高くなった、と考えるべきです。
日本中、世界中の叡智が編集し、日々、加筆修正が行われているのです。そりゃ、解説文の質が上がらないほうがおかしいです。見城さんの判断は、当然のものといえるのです。
▼wikipediaは社会インフラだ
僕はライターの仕事をしていますが、雑誌の記事を書くにあたり、wikipediaは相当に参考にしています。事前の調べものとして、これほど役立つ存在はないからです。
情報が常に最新のものになっていますから、はっきり言って、紙の事典を引くよりも正確だったりするのです。2011年に発行された事典なんて、絶対に参考にできませんよね。ノーベル賞の受賞者も変わっているし、国内の政権も、アメリカの大統領も変わっています。重要文化財だった美術品が、国宝にランクアップしていたりします。
紙の百科事典を参考にしたら、問答無用でいろいろと間違ってしまうのです。
wikipediaを参考文献にする、ということは以前は紙の本の著者としては、恥ずかしいイメージがありました。しかし、既に述べたように、wikipediaは紙の事典をとっくに凌駕しているのです。現在は大学の卒論で、wikipediaの引用を許可していない教授がまだまだいますが、将来、そんなことを誰も言わなくなる日がくることでしょう。
wikipediaは、もはや社会インフラと言っても差し支えありません。そして、人類の知に大きく貢献しているといえます。なぜなら、かつては数十万円もした百科事典を、いつでも、誰でも、無料で使えるようにしたのです。学問と情報を身近にしたこと。これは歴史的な意味をもつことだと思います。

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